フランスに於ける支店VS現地法人

その利点と不利な点

支店・現地法人の法的性質
心理的観点
外国為替管理の観点
海外投資管理の観点
商業リース法の観点
税務上の観点
設立費用について
ヨーロッパ単一市場について
結論



支店・現地法人の法的性質

外国企業は支店というオフィスを通してフランスでビジネスをすることができます。支店は法的に独立した人格ではありません(税務上および海外金融財務関係上はある意味で独立しているかのように扱われますが)。
外国の本店はフランスの支店のすべての債務および業務に対して100%直接の責任を負います。

それに対し現地法人はフランスの法律に基いて設立され且つ、それによって管理される法的に別個の企業体です。
外国の親会社から独立した企業体で、原則として、株主である親会社は、子会社の債務・業務に対する責任はなく、子会社の債権者や共同契約者からの債務の履行は、子会社の資産に限られます。

子会社倒産の可能性をグループの財務上の見地・企業政策により有効に避けることができるにしても、実際的な問題として、子会社レベルで有限責任であるということにより(子会社の債権者・従業員・税務署等が子会社の資産を超えて追及することができないという、理論的な、しかしながら法的な可能性も含めて)、交渉でより望ましい解決策を見出すことができるようになります。これは債務がフランス子会社の資産に法的に限られていない場合には不可能でありましょう。

又、フランス法は、本店の支店に対するコントロールと本質的に同等の、子会社に対するコントロールを親会社に保証しています。

支店に反して子会社は、第三者(パートナー・投資者・ベンチャー資本家・マネージャー・従業員・合弁や再編成フレームワーク内の他グループ会社)への株式の発行または譲渡を行うにあたり、より大きな柔軟性を提供します。社債・株式の一般への発行、証券取引所での相場を得ることもできます。

一方、子会社の形態をとると、会社の活動が一定レベルに達すると従業員に利益配分に参加させるという法律が適用されます。

心理的観点

支店の場合は外国本店が法的に直接債務を負うわけですから、債権者にとっては支店のほうがずっと安全にもかかわらず、実際上は、政府機関・銀行・仕入先・顧客には、現地法人と取引する方が好まれるようです。(もっとも親会社の保証を要求されることがあるかもしれませんが)。

外国為替管理の観点

フランスではこの外国為替管理は廃止されました。欧州連合のメンバーであり、ユーロ通貨使用国であるフランスが今後、この種の管理を復活させるのは実質的に考えられないことでしょう。

海外投資管理の観点

現在のところ、支店・現地法人の設立には事前申請や許可を得る必要はありません。フランスで既に存在していた商業活動の取得の場合のみ、事前申請を必要とし、政府機関から拒否されるケースは限定的ですがあるかもしれません。
法律事務所Phillips Giraud Naud &Swartzのメモランダム " Foreign Direct Investment in France" を参照ください。

商業リース法の観点

フランスでの商業店舗リースは、借主にそのリースについての一種の所有権を与えます。それは契約更新権で、これは契約上除外することができないものです。もし、更新時に家主がリース更新を拒否した場合、非更新による権利侵害に対する補償を借主は得ることができます。

この「更新権」は、商業リース権に金銭的な価値を与えるキーエレメントですが、外国企業(欧州共同体の法の基に設立されている企業は除く)は、自国に同様の権利が法により規定されていない限り、法律によりこの権利を与えられていません。
ほとんどの国には同様の商業リース法がありませんから、例えばアメリカ・日本企業の支店はこの更新権を与えられません。
例えばとても良いロケーションの小売店舗の場合のように、この更新権がないという金銭的ロスを考えると支店ではなく、金銭的プラスを与える現地法人の形態が必然の場合も考えられるでしょう。

税務上の観点

支店も子会社も純利益に対する法人税については、基本的に同様の規則が適用されます。

しかしながら、いくらかの相違点があります。

− 支店は、その業務活動に実質的に関係した所得に対して課税されます。(外国本店の、支店と関係のないフランス源泉所得に対しては非課税です。)
子会社は、フランス国外の支店に実質的に関係した所得を除いて、全世界所得の全てに対して課税されます。
もちろん、外国会社は子会社や支店を介さず、フランスでの取引を直接に行うことができます。

− 支店は、外国の本店に対して支払ったロイヤルティや本店からの借入金の利息を税務上損金とすることはできません。しかしながら、本店からの資金を他のグループ会社を経由したり、銀行を経由して行うと、上記のロイヤルティや借入金利息を税務上損金にできることもあります。
子会社の場合は、親会社に支払った利息は損金とする上で、資本金に対する借入金の割合をベースとする損金算入限度額があります。間接的な借入でしたら、限度なしで損金となります。

− 子会社の損失が資本金の半分を超えた場合、第三者にその事実を知らせ、また2会計年度内には状況を立て直すために所定の対策処置をする必要があります。このような義務は支店にはありません。

− フランス源泉所得が外国の本店の所得として計上されていて、それがフランス支店の業務に「実質的に関係した」所得であった場合、これは支店の課税対象の所得に含まれます。

− 支店は本店の運営経費を合理的な配分によって税務上損金とすることができます。子会社の場合は、親会社による子会社に対する運営サービスを、明白に個々に認識できる形で、親会社やグループ会社から請求書を発行されたものだけが控除可能です。

− 本店と支店間で請求書を発行されたサービスについて付加価値税はかかりません。EU以外の外国会社は、EUに商品を輸出していない限り、支払った付加価値税を控除することはできませんので、子会社ではなく支店を使うことが実質的に外国会社の支払金額を少なくするのに役に立つケースもあると思われます。

− 本店の国で適用される連結納税の規定によっては、支店の利益はその国で課税され、その損失は本店の利益から控除されます。損失が初めから予期できる場合においては、現地法人か支店かの選択する上での要因ともなるでしょう。

− 本店と支店は法的に同一人格ですので、フランスの税務当局が本店の会計書類やその他の情報の提出を要求することができます(それにより会社内部の取引や本店の経費の配分などに異議することについての良い立場にあることでもあります)。

− 子会社はフランスと他国間の租税条約の条項の適用受けることができますが、一般的には支店には適用されません。(又、場合によっては、支店はその本店の国の租税条約をも適用されないことがあります。)

− 支店には税引き後利益の25%の分配税(Distribution Tax)が存在します。この税はほとんどの国とフランス間の租税条約により、軽減・削除されております。もし、この税がかかる場合は、法人所得税と共に年に一度納税します。しかし、その年度に外国本店が配当金を支払わなかったという証明書類の提出をすれば、この税は還付されます。

− 返済されない資金が増資以外の手段で親会社から子会社になされた場合(補助金と呼ばれることが多い)、子会社の課税所得となる上に、もしこの補助金の性質が、財務上より商業上のものとみなされた場合は19.6%の付加価値税の対象となります。


支店から子会社への組織変更について(又は、子会社から支店へ)

外国法人のフランス支店からそのフランスの子会社への現物出資または資産や営業の譲渡をすると、取引税(droit d'enregistrement)とキャピタルゲイン税、これは支店の売上高をベースとするのれんの要素ものですが、この両方がかかってきます。

ある場合には、課税されない譲渡も可能ではあります。しかしながら、状況によっては税務当局とのルーリングを必要とし、3年間、子会社の株を譲渡することの権利を制限することがあります。
 
外国法人の子会社から支店への変更もヨーロッパ再編成のフレームワークの中では可能であります。この場合も上記と同様にフランスの課税関係があるので、キャピタルゲイン税を避ける為にはルーリングが必要となります。

会社形態の変更することは、フランスだけでなく、そこに資本参加している者(Entities)の国の課税関係も生ずるかもしれません。

最初の投資段階で、後に会社形態変更の可能性を予期できる場合、特に支店や子会社の業績が非常に伸びると期待できる場合は、変更による税務上の問題・影響を事前に検討すべきでしょう。

設立費用について

支店も子会社も設立申告費用はほとんど同じですが、子会社を設立する方が、会社の定款を作成するなどペーパーワークが多い分、多少高くなるようです。しかしながら、支店登記する場合には、本店の定款をフランス語に訳す必要があるので、設立費用としては大きな差ではありません。

ほとんどの形態の子会社は最低資本金が要求されていますが、支店には投資すべき最低額はありません。SA、SAS, SASUの最低資本金は37,000ユーロで、会社設立時に最低その50%は払込まれていなければなりません。2003年8月1日からSARL, EURLには最低資本金がなくなりましたが、設立時に資本金の20%以上は払込まれていなければなりません。又、もし資本金が会社の行う業務に全く不足する場合には、その株主は個人的に債務を負うこともあると最高裁判所で決定されました。

運営上、支店には法定監査人は要求されていません。(SA, SAS, SASU, そしてある場合には、SARL, EURLでは要求されています)。 しかしながら要求される会計業務については、支店・子会社ともほとんど同様です(但し、支店の場合には本店の一般管理費の配分計算をしたりすることを除いて)。
子会社と異なり、支店であれば、支店長や支店所在地などを異動する場合を除いて、毎年の法定登記料(株主・取締役会に関連するもの)は必要ありません

年間の申告経費は支店の方が高くなるようです。というのは、支店の申告は外国の本店と支店の会計2つをカバーすることになるからです。

以上を総合すれば、いくらか支店の方が経費は少ないといえます。しかしながら、大きな違いはないので、この経費の軽減を理由に子会社ではなく支店という形態を選ぶ理由にはならないと思われます。

ヨーロッパ単一市場について

理論的には、1993年に導入された境界のない単一市場がおよび1999年に導入されたユーロによって、国ごとに子会社を持つ今までの方法より、ヨーロッパ域の取引全体を一手にする単一の「ヨーロッパ」会社、あるいは国境とは異なる一定の地域をカバーするいくつかの会社を持つ方が魅力的になったはずです。
多様なグループがこのラインにそっての会社再編成を既に行っていますし、ある場合には、子会社を支店に組織変更することもみられます。

現実には、フランス世論にとり「フランス」企業に対する「ヨーロッパ」企業という観念を実際に吸収するのには時間がかかるでしょう。とはいっても、最近EUは指令書を採決し、それが履行されれば、ヨーロッパ企業形態は欧州連合加盟国のどこにでも設立できることになり、このプロセスは間違いなく加速されることでしょう。しばらくの間は、言語と文化の違いは残るでしょう。従って、ローカルな販売・サービス提供会社の存在が少なくとも近い将来は商業的に有効であり続けることも可能です。仮にそうであったとしても、もとろんロジスティックな機能、例えば輸入・組立作業・倉庫・アフターサービスおよび事務サービスなどは連結されたり、再グループ化された「裏方」となることを妨げるものではありません。

結論

フランス市場に進出するのに支店・子会社どちらにしても大きな障害があるわけではありません。どちらの形態も存在しますが、今のところ、より一般的なのは子会社の形態です。支店も増加しつつあります。

税務上または経費上の要因により特別なケースとして異なる結論が出る場合を除き、現在においては一般的に、現地法人(子会社)の形態によるメリットがそのデメリットを上回るといえるでしょう。

このメモランダムは法律的な意見書ではありません。
今日までに発行された法律・法令や知られている慣例などを参照しています。
あらゆる可能な仮定を考慮したものでも、具体的な状況にお答えするものではありません。


カデラス・マルタン会計事務所注
PHILLIPS GIRAUD NAUD & SWARTZ 法律事務所が2003年9月1日に発行したメモランダムを和訳したものです。