フランスでの年金申請手続きについて

I 社会保障機関の老齢年金
II 補助年金
III 源泉徴収
VI 退職者用の滞在許可書
V 結論


フランスでの年金申請手続きについて

今回の実務情報では、フランスでは既に労働をしていないが、フランス滞在中、数年間フランスの年金機関に社会保険料を支払い、今日定年年齢に達した日本人の年金申請手続きについて説明したいと思います。この申請は、フランス国に居住していることは条件づけられていません。またフランスの年金を受け取る定年者は、フランスに居住していなくても、一定の条件下にフランス滞在許可書を取得することができます。この申請方法については後ほど述べます。
なお、ここではフランスの法律に基づいて勤務先の会社が支払う退職金は対象といたしません。

フランスでは、年金制度は大きく次の2つのカテゴリ−に分けられます。

− 社会保障の一般制度からの年金、これは役職の有無にかかわらず、すべての給与所得者に与えられます。
− 補助年金
ARRCO 役職の有無にかかわらず給与所得者全員の補助年金、給与のA区分(2002年においては年28,224€)を対象とします。
 AGIRC 役職者(CADRE)の給与のA、B、C区分対象。(2002年においては年収225,792€以上は対象外。)

上記以外に企業が任意に他の私的年金機関を追加することもできますが、それについてはここでは言及いたしません。

I 社会保障機関の老齢年金

社会保障機関の老齢年金は60歳から申請できます。フルレートで年金を受け取るには社会保険料の払込期間が40年(160四半期)に満たない場合には、60歳以降に申請を遅らせることができます。65歳以上で申請をすると、払込年数が不足していても、フルレートの年金の受け取りが認められます。

年金の精算・支払申請は自動的に行われるのではなく、本人あるいは代理人が自ら依頼します。最初の年金の支払期日は、本人の年齢ではなく、社会保障機関に申請した月日によります。

年金精算・支払申請をする前に、氏名、住所、フランスの社会保障番号(n°de Sécurité Sociale)を明記した手紙で、最終勤務地所轄の社会保障機関に年金の計算を依頼することが可能です。
この計算書によって、老齢年金の計算の対象となる給与を正確に確認できます。次に、最終勤務地か住居所轄の健康保険機関老齢年金課(CRAM branche vieilesse)宛てに文書で年金申請書式を依頼します。
この書式に、全ての情報を書き込み、希望する年金支払開始日を記入します。この日付は、申請書提出日以降、また60歳の誕生日以降でなければなりません。そして、下記の書類と共に、配達証明付の書留で送付します。
− 3ヶ月以内発行の戸籍謄本のフランス語への法定翻訳、
− フランスにある銀行の口座証明、
− フランスに居住している場合は、滞在許可書のコピー、
− 最新の税務署発行所得税課税通知書、或いは非課税通知書のコピー、
− 有効な身分証明書のコピー(多くの場合パスポート)、
− 雇用者による退職証明書(CRAMに書式を依頼する)、
− 本人による退職宣誓書(同上)。

その後、申請者に申請書の受理と申請番号が健康保険機関から通知されます。
希望した年金支払開始日から3ヶ月以内に、合意あるいは却下の決定が送られてきます。その通知書には年金の支払額、支払計算など詳細が記載されています。健康保険機関の決定に対する異議申し立て(却下、誤算)がある場合は、当通知書受理2ヶ月以内に、健康保険機関上訴委員会会長宛てに配達証明付の書留で送ります。

一般的には、年金の支払は毎月末ですが、保険料の払込年数が少ないなどで支払われる年金の金額が少ない場合は、一度に支払われます。

定年退職者に支払われる退職年金は次のように計算されます。

まず、ベースの給与額は、一番高給だった時期の年給の平均をとります(誕生が1948年以降の場合)。しかし健康保険機関の定める上限を超えることはできません。この額(実際の給与額或いはこの上限額)は物価上昇率を反映させるため、毎年見直されます。

フルレートで年金をもらうためには、160四半期(40年間)保険料を支払ったことが条件になります(1943年以降誕生の場合)。

保険料の支払期間が160四半期に満たない65歳未満の年金申請者については、その年金額が減額されます。ただし、65歳以降の申請であれば、払込期間が不足していても、フルレートの年金が給付されます。不足の1四半期毎に2.5%減率されます。フルレートというのは、上記のベースの給与額の50%です。よって、1四半期不足毎に1.25%それから減額されてゆくわけです。

度々のフランス法変更の故に、この一般社会保障制度からの年金は、申請者の誕生した年によって算定法が異なります。

【例】
1948年1月に生まれた日本人が、1990年1月から1995年12月までフランスで勤務しました。6年間、つまり24四半期です。60歳の誕生日、2008年1月に退職をします。
フランスでの年給額は下記のようでした。

1990 450.000FF
1991 500.000FF
1992 550.000FF
1993 600.000FF
1994 700.000FF
1995 700.000FF

それぞれの年に対応する健康保険機関の上限額は下記のとおりです。

1990 131.040FF
1991 137.760FF
1992 144.120FF
1993 149.820FF
1994 153.120FF
1995 155.940FF


この年金申請者の年給は、健康保険機関の上限額を超過しているので、この上限額がベースとなります。

年金の年給付額 = ベースの年給 X 年金率 X 払込済四半期数 / 160

ベースの年給は、規定の上限額を超えない限り、より高額だった25年間の年給の平均です。この申請者の場合は、1995年の上限額155.940FFが適用されます。(この額は1995年のもので、申請時の2008年に物価上昇率を加えて、見直しがされます。)

年金率算定には2つの方法があり、どちらか申請者に有利な方が採られます。

A) 65歳までに不足する四半期数
この場合は、60歳ですから5年間、20四半期の不足。
〔フルレートの年金率50%〕−〔1.25% X 20四半期〕
= 25%
B) 160四半期に不足する四半期数
この場合、 160−24=136四半期が不足。
〔フルレートの年金率50%〕−〔1.25% X 136四半期〕
= −120

有利なA)の25%が適用されます。

ですから、この申請者の年金の年間給付額は、
155.940FF X 25% X 24/160 = 5.848 FF
物価上昇率を加えて、およそ 6.000 FF ということになります。


II 補助年金

健康保険機関の年金と異なり、この補助年金は四半期数ではなく点数を基に与えられます。
老齢年金のフルレートを得られる年数を過ぎても働き続けている人は、上記の老齢年金を増やすことにはなりませんが、この補助年金の点数を獲得し続け、よってこの年金を増額することになります。
この年金は55歳から申請することができますが、その場合、減給率が適用されます。(65歳に近づくにつれ、減率は低くなります。)
この控除は、年金額・労働四半期数・取得点数などと関わりなく、一括して適用されます。
補助年金をフルレートで支払ってもらう為に、この申請を65歳の誕生日まで遅延することともできます。
年金額は、点数、その点数の価値、減給率によって定まります。

この申請は、最終の勤務先の納めていた補助年金機関に申し出ます。この機関がもう存在しない場合は、AGIRC(4, rue Leroux 75116 Paris)に年金申請をします。給与の区分別の申請になります。
申請書式は、補助年金機関で入手できます。
用意する書類はおおよそ次の通りです。
− 署名した所定の申請用紙、
− 3ヶ月以内に発行された戸籍謄本のフランス語法定翻訳、
− 雇用者の退職証明書(補助年金機関に書式あり)
− フランスにある銀行口座証明書(外国の銀行口座への送金も可能)、
− 65歳以前に申請の場合、社会保障年金の裁定通知書。
年金機関によっては、他にも書類請求されることがあります。


III 源泉徴収

年金が支払われるときには次の税金が源泉徴収されます。
− 社会保障負担金 (CSG) 6.2%
税務居住地が外国にある年金受給者にはかかりません。その代わりに下記の健康保険分担金がかかります。
− 社会債務返済負担金 (CRDS) 0.50%
− 健康保険分担金 2.8%
税務居住地が外国にある場合に課せられます。ただし、ヨーロッパ以外の国に居住して、その地の健康保険が使える場合はその限りではありません。

VI  退職者用の滞在許可書

1998年から導入された新しい滞在許可書です。既に滞在許可書を持っていて、フランスで働いた間老齢年金の社会保障費を支払ってその公庫からの年金を受け取る権利を持つ人が、これから母国に帰国する時に与えられます。
この許可書は10年間有効で、問題なく更新されます。1年以内の滞在が可能です。しかし、フランス国内で職業につくことはできません。
この許可書を申請するには、フランスにおいての労働期間、つまり老齢年金保険を支払った期間が15年以上であることが条件です。以前同様にフランスに居住した配偶者も同じ滞在許可書を取得できます。
普通10年間の滞在許可書は、3年間フランスを離れると抹消されますが、この退職者用の滞在許可書によって、10年間の滞在許可書所有者がその権利を放棄しないで、自由に母国・あるいは他の国に居住することを可能にします。
つまりこの滞在許可書は、外国人の定年退職者に自由にフランスを出入国し、ビザなしで3ヶ月以上一年以下の滞在する権利を与えます。
しかしながら、外国人の定年退職者は健康保険を享受することができません。緊急処置を除いて、保険の給付はありません。ですから、フランスに医療処置のために来ることはできないということになります。

この滞在許可書は次の省庁に申請します。
− この定年退職者がフランス滞在時に居住する地の県庁、
− フランス以外に居住地を既に持っている定年退職者はその地のフランス領事館。

V 結論

簡単ではありますが、ここで見てきましたようにフランスに於ける定年制度は非常に複雑です。ある年齢に達して定年退職をなさろうとする外国人がどのような年金機関に対して年金の申請をする権利があるかをお話してきました。申請書類を提出する機関は、健康保険機関(SS)・役職者外の補助年金機関(ARRCO)・役職者の補助年金機関(AGIRC)との3機関です。
この年金申請にはいろいろな書類を用意し、煩雑な手続きをする必要があり、自国の紆余曲折の役所手続きに慣れているはずのフランス人にとっても大変です。ですから、外国人で定年退職なさる方は、ご自分が働いていたフランス子会社のフランス人従業員に代理で申請手続きをしてもらうか、その子会社の顧問法律事務所、顧問会計事務所にご相談なさることを切にお勧めします。

前述の定年退職者のための滞在許可書については、15年間の保険料支払が条件であることから、一般的に赴任期間がそれよりずっと短い日本から派遣された方々には関係が少なく思われます。


(注 2001年3月 PHILLIPS GIRAUD NAUD & SWARTZ 法律事務所発行のメモランダムを参考にしました。)