≪フランスにおける会計上の損益と税務上の損益との違い≫


           
T.概要
U.引当金
V.固定資産減価償却
W.未実現為替損益
X.OPCVM有価証券評価損益
Y.損金算入が全く認められない費用および引当金
Z.税務上の欠員金の繰越
[.結論


T.概要

一般に各企業は、年次決算書の作成と共に、次の様な作業が行なわれます:

@税引前利益の算出 (A)、
A税法に従った種々の項目の加減算(B)、
B課税所得の算定(C)=(A)+(B)、
C法人税額の計算(D)
D税引後利益の決定(E)=(A)−(D).

しかしながら、Aに該当する要因を列挙し、会計規則と税法とのあらゆる相違点を研究するのは容易な事ではありません.

ここでは、Aに該当する項目のうち主要且つ頻繁に登場する調整項目を説明致します。


U.引当金                         

引当金に対して税務上の損金算入が認められる為には、以下の条件を満たす必要があります:
(1)明確な目的を持ち、明らかな根拠に基づいた適切な金額である事、
(2)進行中の出来事ガ将来の損失または費用を生み出す可能性が高い事、
(3)損失または費用が、当期中に発生し且つ当期末にも存在する事実に起因している事、
(4)確かに記帳され、また法定損益申告書の書式NO.205に記載されている事、
   
在庫全体または売上全体の内の何パーセントというパーセンテージを用いる事は、一般的に認められていません.安全性の原則から、あるいは連結決貫の為に日本の親会社が定めた規定に従って、会計上この様な引当金が設定された場合でも、それ等はフランス税法の要求を満たすものでなければなりません。
   
では税務上、損金算入が認められる引当金は、実際にどの様な基準に基づいて設定されるべきか、その主なものを具体的に示してみますが、上記(1)〜(4)の条件を満たしていれば、ここに挙げる以外の引当金も設定する事ができます:

−棚卸資産減価引当金(provision pour depreciation des stocks)
製品毎。販売価格が原価より低くなる事を立証できる範囲に於いて可能。 

−貸倒引当金 (provision pour depreciation de clients)
得意先毎(TVA抜きの額が対象)。売掛金回収不可能の危険性を立証できる範囲で可能。当該得意先の倒産という事実が実際には必要。支払遅延の事実だけでは不充分。
    
一製品保証引当金(provision pour garantie)
過去のデータに基づいた正確な統計的数字が必要。
                                     
一係争引当金(provision pour litige)
(従業員または得意先との間に)現実に訴訟が起きている事実が在り、その結果として   の賠償金支払いの実際の危険性を立証できる範囲内で可能。

一特別修繕引当金(provision pour gorosses reparations)
承認済の工事の見積書の提示が必要(屋根組みの修理等の大規模な修復工事が対象)。

以上の様な引当金は、資産価値の低下、あるいは潜在的なリスクまたは費用を認識する目的で設定されるものです。

これに対し、次に述べる引当金は、税務的性格を帯びた、むしろ損金算入可能な準備金と言えるものです。この種の引当金として認められているものはフランスでは極めて少ないので、ここでは各々の適用条件には触れずに、その種類だけを挙げておきます:

一仕入価格上昇準備金(provision pour fluctuation des cours)
          
在庫製品または原料の仕入価格が、前々事業年度以降10%以上上昇している場合。

−価格変動準備金(provision pour fluctuation des cours)

特定の原料・鉱石・鉱物・織物原料・脂肪種子等を仕入れている製造業者が対象。

−国外投資損失準備金(provision implantaiton a l etranger)
 国外投資の対象となった企業の損失額。但し上限は投資額。      

これ等の税務的引当金は、但し永久に損金算入が認められている訳ではなく、実際には6年目以降の年度の課税所得に戻入れられる事がしばしばです。


V.固定資産減価償却

固定資産の減価償却に関しては、会計規則と税法との間に殆ど違いは在りません。どちらの解釈でも、償却額は、当該資産の予測耐用年数に応じて定額法で計算されると言う事が原則です。

コンピューター機器・工具・貯蔵用機具等の一部の固定資産に対しては、定率法の適用が認められるという税務上の利点があります。

また、企業が取得した乗用車の償却については、重要な制限が設けられています。即ち、
TVA込みの取得価格が以下の額を超える部分に対応する償却額は、税務上の損金算入が    認められず、課税所得に加算されます:

−1993年11月1日以降に購入の車両の場合は10万フラン、

一同年月日以前に購入の車両の場合は、購入日に応じて6万5千フラン、または5           万フラン、または3万5千フラン。

W.未実現為替差損益

決算時に外貨建債権または債務が存在する場合、これ等は決算時の換算レートで評価される必要があります.この評価額と計上時の帳簿価格との差によって未実現為替差損益が発生する訳ですが、これには次の二つの場合が想定されます:

(1)未実現損失(評価損)の場合
会計上、税務上共に損金算入が認められます。

(2)未実現利益(評価益)の場合
会計上は安全性の原則から利益計上されませんが、税務上は課税対象利益と見なされます。従ってこの場合は、評価益として課税所得に加えられます。

X.OPCVM有価証券評価損益

当有価証券の取得価格と決算時の実勢価格との差額から成る評価損益は、キャピタルゲ     インかキャピタル・ロスかによって課税所得に係わって来ます。

為替差損益同様、会計上は未実現キャピタル・ロスの場合のみ、引当金設定によって計上されます。

未実現キャピタル・ゲインは、税務上は利益とされ、課税所得に加算されなければなりません。


Y. 損金算入が全く認められない費用および引当金

費用および引当金の中には、経済上の観点からは根拠が有り、従って会計上は費用処理 ができるにも拘らず、税務上は損金算入が認められず、課税所得に加算されなければならないものが幾つか存在します。主として次のようなものが挙げられます:

−自家用車税(Taxe syr les vehicules de tourisme des societes)、   

一一部の罰課金、

−親会社からの借入金に係る支払利息で、一定の上限を超えた部分(過少資本税制)

一退職給与引当金(provision pour depart a la retraute)。

また、売上高の0.13%に相当するORGANIC(連帯税)という税金については、決算時に計上した引当金は損金算入できませんが、税自体は納付年度に於いて損金算入が可能になります。

Z.税務上の欠損金の繰越し

欠損金は、その発生源によって、次の二種類に分類する事ができます:    

一減価償却から成る欠員金
次年度以降に税務上の利益が出た場合、この種の欠損金とその利益との相殺は無期限     に行なう事ができます.

一その他の欠損金
次年度以降の税務上の利益との相殺は、5事業年度の間に限って可能です。

過去3事業年度の間に課税利益を計上し法人税を納めた企業は、当年度の欠損金を、この3年度の利益に繰戻して相殺する事ができます(この制度は一般的にキヤリーバックと呼ばれます)。繰戻しが可能な額は、当然、課税利益の総額内に留まります。

欠損金を繰戻した場合、国庫に対する債権を記帳する事になりますが、その金額は、欠損金額に当該年度の標準税率を乗じて算出した法人税額に相当します。

こうして生じた債権は、次年度以降の法人税の納付に用いるか、あるいは繰戻しを申告した事業年度から5年後に還付を受ける事ができます。


[.結論

以上見て来た様に、会計規則と税法との間にこれ程の不一致が存在するのは残念な事ですが、幸い両者は歩み寄る方向に向かっている様に見受けられます。

同時に、かつては税法の影響をかなり強く受けていたフランス会計規則も、現在では安全性・継続性・真実性の原則を重んじる国際会計基準に非常に近付いている事も注目に値すると言えるでしょう。